0:00-6:00 6部屋掃除+冷蔵庫掃除
今日はトドとの勤務。明朝の予想最低気温が5度との事で、家を出る11時半頃には既に冷え込んでいてチャリのハンドルを持つ手がかじかんだ。途中、自販機でホットコーヒーを買って手を温めながら、やっとの思いで出勤してフロントへ行った。

みかやん「外、すっごく寒いよ。チャリで来たら手がかじかんで」
ダサ坊「どれっ?うわ。こんな冷たくなっちゃって。可哀相に〜」

と、ダサ坊は私の手を両手で包んで温めてくれた。

トド「出勤早々ウチの前でそないイチャつかんでもええやんか!」
ダサ坊&みかやん「別にイチャついてなんか・・・」
トド「みんなみかやんには優しいんや。どうせウチなんか・・・」
ダサ坊「あっ。あの、トドさんも寒かった?手、冷たい?」
トド「ウチは車でヒーター入れて来たからぬくぬくや」
ダサ坊&みかやん「・・・・・・」

みかやん「じゃ、212号室が空いてるから掃除に入ろ。あたしは寒いから1部屋目は風呂掃除をするね」

と、グレ気味のトドを宥め賺して1部屋目へ向かい、部屋のドアを開けると熱気ムンムンだった。イヤな予感がしてすぐに風呂場を覗くと、浴槽に熱いお湯が入ったままで、もうもうと白い湯気がたちこめた。

みかやん「うわっ!最悪。お湯入ってて壁もビチャビチャだよ。ああっ、天井も水滴だらけ。換気のスイッチも切られてるよ〜。えーん」

トド「めっきり寒くなったからなぁ。お客さんも熱い風呂に入りたいんやろ。でもみかやん、寒いんやろ?丁度ええやん。あったまるでぇ。いひひひ」

みかやん「意地悪っ」
トド「なんか言うた?」
みかやん「いや、何でもないよ」

ベッドを組む間、風呂のお湯を抜いて換気扇を回しドアを開けておいたものの、風呂の壁はベチャベチャで天井からは水滴が滴っていた。「湯気が天井からポタリと背中に〜♪」の状態だが、とても「い〜い湯だな♪はははん」な気分ではない。

風呂掃除用ボロバスタオルの端を掴み、風呂の壁を叩き巻くって水気を拭き取り、浴槽の縁に立ってタオルを振り翳し天井の水滴を取る。お陰様で、さっきまで寒くて凍えていたのが嘘のように汗だくになった。ヨロヨロと控え室へ戻るも、休んではいられない。黙々と風呂用ボロタオルを折りまくり午前2時40分になった。

トド「3時まで休まへんか?2時間働いて5分休みがウチはもう4日目でしんどいねん」

みかやん「それもそうだね。少し休んでまたビニール袋折りでもしようか」

休憩して「さて!」と立ち上がるとFちゃんから電話がきた。冷蔵庫掃除を命じられた。いつもの簡単な冷蔵庫掃除とは違って、Fちゃんが分解したのを掃除する厄介なものだ。枠を外したり拭いたりで1部屋につき30分ほどかかる。面倒だが他にする事もないので渋々承諾した。3部屋分の冷蔵庫掃除を終えたところで部屋が空いたので「待ってました!」とばかりに部屋へ向かった。

今度はトドが風呂係だった。冷蔵庫掃除で身体が冷えたので、私が風呂掃除をしたいくらいだった。

トド「ベッチャベッチャやねん!お湯入ったままやで!なんぼ寒かったかて、風呂入ってあったまったら、お湯抜いてもらわんと困るわ!」

さっきのお返しに心の中で「いひひ」と笑いながらベッドの方へ向かうと、枕カバーに点々と血が付いていた。(どうしても見たい方はコチラhttp://yapeus.com/users/mikayan/)「げっ!また生理かい?」と思って近寄ると、ベッドの枕元にメモが置いてあった。メモには「興奮したのか鼻血を出してしまいました。ごめんなさい。許して下さい。若くもないのに恥ずかしいです。○ういち32才」と書いてあった。

トド「昨日のアホ女と違って、こんなん書かれたらなんぼでも許したる。前も”汚してスマン”てメモ書いたんも男の人や。男の人の方がマトモやな」

みかやん「許す許す。男の人にこんな事されると弱いよね」

トド「でも風呂は許せんわ!最悪やで。興奮したのもあるやろけど、熱い風呂に浸かり過ぎてのぼせたんちゃうか?」

みかやん「でもわざわざメモを残してくれたんだから、許しましょ」

その後、どの部屋へ入っても浴槽にお湯が入ったままで風呂掃除が大変だった。トドも私も3部屋ずつしか風呂掃除が当たらなかったのに、あまりの事に朝になって帰る頃には腕が上がらなくなってしまった。これからますます寒くなる。風呂掃除が大変な季節を迎えてしまった。

0:00-8:00 13部屋掃除+血のシミ取り
今日はトドとの勤務。Fちゃんが休みなのでホテルPの腐れYが来る。一昨日、フロントK子に言われたとおり、2時間働いて5分休みを繰り返さなければならないが、今回はいつもの日曜と違って明日は祝日なので、今夜は土曜の夜みたいなものだ。出勤時には満室で、午前1時までC班のDさんとTさんが残り、更に午前2時までTさんが残業してくれた。

Tさんが帰った後、丁度2時間働いたので5分の休憩をした。5分なのでおちおち弁当も食べていられず、煙草を1本とコーヒーを1口ですぐ仕事だ。日曜なので折るリネンも風呂掃除用のボロも無い。満室なので部屋で作業する事もできない。悩んだ末、ゴミ箱用のビニール袋を折る事にした。

ビニール袋は客室に3個あるゴミ箱にセットしてあるので、ゴミが入っていたらゴミ袋ごと取り替えたり、汚物を拾う時に手にはめたり、汚物を入れたりするので一日に何百枚も消費する。各自の掃除用エプロンのポケットに入る大きさにたたんで在庫するが、すぐに飽きる作業だ。

トド「アホくさっ。これから毎日こんな日が続く思たら、やってられんわ!」

みかやん「今までラクし過ぎたんだよ。普通のラブホはこんなモンらしいよ」

トド「せやけど、ウチらは他の班と違ってたった2人やで!金曜土曜なんか2人でめっちゃ忙しい思いするやん!暇な時は少し休んどったってバチ当たらんちゃうの?」

みかやん「Nさんが前に働いてたホテルRや、Oくんの友達が働いてるホテルSでも、作業し続けなきゃなんなくて、ココみたいに食っちゃ寝なんて有り得ないって話さ。会社側に言わせると6時間働いて1時間の休憩だから、6時間の労働時間以内に食っちゃ寝してる方がよっぽどバチ当たりって事なの」

トド「管理が杜撰だったのを棚に上げて今更、何言うてんねんな!隣のホテルPが改装オープンしたら、こない暇なるてわかりきった事やん!それをやな・・・」

トドの話を遮るように、モニターからお客さんが帰る事を知らせる音が響いた。危うくトド節が炸裂するところだった。

トド「部屋が空いた方がよっぽどマシやな。一晩中、ゴミ袋折りなんかやってられんて!」

誰に言うともなく吐き捨てるように叫んで部屋へ向かった。非常にマズイ展開だ。イライラしたりムカついていたりして、負の気持ちを背負って部屋へ入るとロクな目に遭わない。

部屋へ入ってベッドを見ると、ベッドカバーごと布団が枕の方へたくし上げられていた。このような場合、大抵は「何か」を隠している。ゲロ?ウン○?と脅えながら何気なくベッドの横に目をやると、血の付いたティッシュが散乱していた。「なんだ生理か」と心の準備をしてからベッドカバーを広げると、見事な日の丸になっていた。ベッドカバーの下の掛け布団も血まみれだった。

トド「何やっとんねん!どないなアホ女や!自分が生理やてわかっとったら、バスタオルでも敷けばええやん!何が悲しゅうてベッドカバーの上でやらなならんねん!洗面所のタオル類も血まみれやで」

みかやん「風呂上がりにベッドの上に押し倒されたんじゃない?」

トド「それでもや!”待って”言うて支度すりゃええやん!男はいきり立ってもうて止められんかも知れへんけど、女は止められるやん!お陰でベッドカバーも布団まで血まみれや。こないな女、女としての神経を疑うで」

みかやん「ま、とにかく早く処理しないと」

風呂掃除用のボロタオルの上に布団を広げ、風呂スポンジに水を含ませて血の部分を擦り、応急処置をした。血がついたリネン類をビニール袋に入れて、トドと手分けして汚物を持ち、一度控え室へ戻った。

ベッドカバーに漂白剤をつけて洗濯機へ放り込み、掛け布団を作業台に広げ、血のついたリネンが入ったビニール袋に「10/12 大タオル1枚 血液」などと書いてリネン袋に押し込み、新しいベッドカバーと掛け布団を持って部屋へ戻った。

トド「えっらい手間暇やで。このアホ女にウチらの作業を見せてやりたいわ。控え室戻ったら、ベッドカバー濯いで脱水して乾燥機かけて、布団はまた擦ってシミとりして竿に掛けて、やで!このアホ女1人の為に死ぬ思いや!」

みかやん「そんな大げさな」

部屋の掃除を終え、控え室へ戻り、血の始末をした。朝までにいい暇潰しになった。トドは怒りながら作業をしていたが、飽き飽きするビニール袋折りよりマシだと思った。

0:00-6:00 14部屋掃除
今日はトドとの勤務。出勤時は昨日と同様にC班に3部屋残されていたものの、今夜はC班のTさんが午前1時まで残ってくれたので助かった。Tさんと3人で4部屋掃除して一休みすると、Tさんが「安売りの飲み物を買ったら不味くて不味くて」と大騒ぎだった。何気なくTさんが持っていたペットボトルを見ると、”生後2ヶ月から 砂糖不使用 ベビー飲料”と書いてあった。

みかやん「生後2ヶ月からって書いてるよ。それ、乳呑み児の飲み物なんじゃない?」

Tさん「ええっ?・・・あーはっはっは。だーっはっはっは。本当だ。それだもの味しないよね。”アップルレモン”しか読まないで買ったよ。1本49円だったから5本も買っちゃったよ〜。あっはっは。こんな不味いと思わなかったもの〜。あっはっはっは。ひゃーはっはっは。このトシ(Tさん50代半ば)で乳呑み児なんか居ないっしょね。でも孫も居ないのに。あはははは」

Tさんは大笑いの為、暫し悶絶。Tさんが大笑いしながら帰っていったのでトドと2人になった。2人になったとたん、お客さんの出入りが激しくなりバタバタしたが、トドと2人だと仕事が早い。サクサクと6部屋掃除して控え室へ戻ろうとすると、223号室からお客さんが出て来たので慌てて隠れた。

部屋から出てきたのは美男美女のカップルだった。女性の方はあまりにも美しくて一見地味に見えるが、男性に微笑みかける表情にはまだあどけなさが残り、10代後半と思われた。2人は玄関で立ち話を始めた。

女性「じゃあね。ロナウド。また宜しく。私は一休みしてからタクシーで帰るから」

男性「そんなこと言って、次の男が来るんじゃないの〜?明日も学校でしょ?一度、家に帰った方がいいんじゃないの?」

女性「うちの高校、私服だからこのまま行けるもん。でもホント今日は一休みしてから帰るって」

男性「送るのに。じゃ、また俺もメールするからメール頂戴ね」

女性「ロナウドだって明日、仕事でしょ。早く帰った方がいいよ。またメールするね」

男性を見送って女性は玄関に残り、バッグから携帯を取り出してどこかへ電話をかけた。

女性「○男〜!起きてた?ね、今、ラブホに居るんだけど来ない?」

女性「ゴム付けてくれる?なら、ニマンでどお?」

女性「フェ○だけイチゴーでもいいよ」

女性「すぐ終わるならハッセンでもいいけど。どうする?」

女性「朝、ここから学校行きたいんだよね。こっちから声掛けたからイチマンでいいよ。こないだと同じラブホだよ。待ってるね。すぐ来てよ」

女性は電話を終え待合室へ入ったので、トドと走って控え室へ戻った。

トド「とんでもない話を聞いてもうたわ。高校生て言うてたやん。札幌で私服の高校て頭ええ学校やで。何やのロナウドて?どう見ても日本人やろ」

みかやん「ハンドルネームなんじゃない?サッカー好きかも。出会い系で知り合ったんじゃないの?」

トド「ウチも19才の娘をもつ親や。あの子は多分17〜18才やで。そんな子供が何が”2万円や1万5千円や8千円や”。自分で身売りの交渉してどないすんねん!ホンマ呆れてもうたで」

みかやん「何て言うかねぇ。あたしもビックリ」

トド「これから来る男も男や。ラブホにおる言うたらいかにも”今、他の男と終わりました”言うてんのと同じやん。それにや、高校生がこんな所から学校行くって何事やの!自立して職業としてやってる人にはモンクは無いわ。親に面倒見て貰ってる身で、ゴム付けてやって2万円?口でやって1万5千円?早く終わったら8千円?って、すっかり慣れとるやん!」

トド「ウチの娘の友達にも、金持ちの子やのうて本人もプーやのに、毎度ゴージャスな服装とブランド品でかためてる子がおったけど、親もおかしいと思わへんのか?高校生でこんな荒稼ぎしよったら、もうアホくさくてまっとうな職には就けんで。ウチらよりよっぽど稼いどるわ!はーーーっ。アホくさっ」

その後もトドの話は止まらなかった。久しぶりにトド節が炸裂した。延々と続くトド節の最中に、女性が呼び出した男性が来て部屋へ入ったようだ。モニターを見ながら深いため息をつくトドだった・・・だったのも束の間、Fちゃんから電話がきて「そろそろ223号室の掃除をしてくれないか?」と言われた。あまりのことに、その女性が使った223号室の掃除をすっかり忘れていた。またも深いため息をつくトドだった。

0:00-9:00. 2部屋掃除(最低記録タイ)
今日はOくんとの勤務。出勤時には在室がたったの5部屋で、いい感じに暇な気配が漂っていた。C班が帰った直後に211号室が空いたので掃除に向かい、難なく掃除を終えると、モニターからお客さんが精算を始めた事を知らせる音が鳴った。206号室だった。

211号室から206号室へ向かおうと、211号室の前で206号室のお客さんが出てくるのを待っていると、さっき精算を始めたハズなのになかなか部屋から出て来なかった。

Oくん「遅いね。精算に手間取ってるのかな?年寄りかい?」
みかやん「年寄りかも知れないし、名残惜しいんじゃないの?」
Oくん「なるほどね・・・」

ヒソヒソと話をしているとドアが開く音がしたので、カーテン越しに注目してハッと息を呑んだ。

206号室から出てきたのは、サマーセーターに膝スカートをはいたスッピンで乱れ髪の60代後半の女性と、派手な花柄のワンピースに黒のカーディガンをはおった、これまた60代後半の女性だった。Oくんと固唾を呑んで女性2人が玄関から出て行く姿を見送った。

Oくん「ひえぇ〜。婆さん2人だよ。こないだの男3Pより怖いかも」

みかやん「確かに怖いね。いや、でも姉妹で旅行中かも知れないよ」

怖々206号室へ向かう途中、フロントからダサ坊が出てきた。

ダサ坊「はい。コレ。ローションね」
みかやん「うそーっ!ローションなんか使ってたの?」
ダサ坊「うん。売れたよ。えっ?何?どうかした?」
Oくん「だって、お婆さんが2人だったんだよ〜」
ダサ坊「マジーっ?あんまり見てなかったよ」

Oくん「イヤだー!入りたくないよー」
みかやん「ダサ坊、先にハギ入ってみてよ〜」
ダサ坊「ま、そう言わず。じゃ宜しく〜」

ダサ坊は私にローションを手渡し、逃げるようにフロントへ戻って行った。

Oくんは風呂係で私は部屋係だったので、腹を括って私が先に部屋へ入った。早速ベッドの方へ向かうと、ベッドカバーや布団が床に落ちていて、ローションまみれのシーツが剥き出しになっていた。想像していた光景とは言え、グッタリした。

Oくん「うわあぁぁ。酷いね。は〜〜〜。何て言うか、やっぱ女の人もあのくらいのトシになるとカッサカサで、ローション使わないとカサカサ言うんでしょ?」

みかやん「”でしょ?”って言われたって、あたしゃあの人らと同年代じゃないもん、わかんないよ。失敬な」

Oくん「俺らの親より上の年代だよね。アレは枯れた果実って言うより、枯れ葉2枚だよ。枯れ葉2枚でカサカサカサカサ言わせてたんだろうさ。あぁ、怖い怖い」

みかやん「やめて〜。キモイよ〜」
Oくん「カサカサカサカサ、カサカサカサカサ」
みかやん「イヤだってばーーっ!」

泣く泣く、ローションまみれのシーツを丸め、やっとの思いでベッドを剥がした。ふと我に返り何か部屋が臭っている事に気が付いて辺りを見回すと、漬け物や珍味の食べ残しがあった。仲良く2人でお茶をすすり、漬け物や珍味や団子を食べて帰ったようだ。嗜好が実にお婆さんらしい。怖いのかキモイのか微笑ましいのかよくわからなくなった。

控え室へ戻るとドッと疲れが出た。グッタリと休んでいるとFちゃんが来た。ホテルKのフロントT氏が退職する事になったので、Fちゃんの代行をOくんがする事になるそうだ。フロントOくんの誕生らしい。しかしだ。「お客さんから電話がきたら何でも”さようか〜”って言っとけばいいんでしょ?」と言って私達を激しく脱力させた時代劇かぶれのOくんがフロントだなんて。そんなんで良いものなのか?

枯れ葉2枚の部屋を掃除したっきり、それ以降部屋が空かなかった。かつて、OくんとトドとYくんが成し遂げた偉大な最低記録2部屋のタイ記録という何とも不名誉?な記録をうち立ててしまった。

Oくん「婆さんの部屋で最後だったなんて、後味が悪いよ」
みかやん「だからもう、その話は思い出させないでって」
Oくん「また来るかもね」
みかやん「あたしが休みの日ならいいけど」

女2人も男2人も男3Pも怖くはないが、さすがにお婆さん2人は怖いと思った。Oくんやダサ坊が男同士のお客さんを怖がる気持ちが少しわかった。それはそうと、明日からOくんのフロント修行が始まるそうだ。大丈夫なのだろうか?
取り急ぎ昨夜〜今朝の日記を。

0:00-6:30 11部屋掃除
今日はトドとの勤務。給料日とは言え、昨日からの雨の為かお客さんの入りが悪く、出勤時には在室が9つ。1部屋掃除すると1部屋埋まりを繰り返し、在室はずっと9部屋のままだった。

それは突然起こった。

4時49分頃、8部屋目の掃除を終え撤収するところだった。私は先に階段へ出て、リネン籠とゴミを持ち、更にクイックルワイパーとコロコロを持つ為に体勢を整えていて、トドは部屋でモニターの電源を切っていた。そして4時50分を迎えた。何やら、カタカタガタガタと異様な音が聞こえてきたその時、トドが叫んだ。

トド「地震や!揺れとるでえ!」
みかやん「うそーっ!ひえーっ」

控え室から一番遠い213号室に居たので、大荷物を背負いながらも一目散に走った。トドが来ないので通路を見渡すと、トドが213号室の前でしゃがみこんでいるのと、様々な音とともに通路の天井や床がたわんでいるのが見え、かつて体験した事のない恐怖を感じた。

お客さん達が取る物も取り敢えず全裸で飛び出してきて、さながら地獄絵図のようになるのではと想像して怖かったが、お客さんが出て来る気配はなかった。揺れる中、リネン室を覗くと、積んでいたリネンが崩れていて、棚のリネンも床に落ちていて、ますます怖い。

トドは戻らないし、お客さんも出て来ない。自分はどこに隠れようと思案するも頭が働かなくて焦る。作業台はすぐに崩れそうだし、窓の傍にいるとガラスが割れるのでは?と思うし、ロッカーが倒れるのでは?と思うとロッカーの方にも行けず、地震のさなか大いに焦った。

ようやく揺れがおさまり、トドが戻ってきた。恐ろしく長い時間に感じた。

トド「ひゃーっはっは。みかやんの逃げ足の早さには驚いたわ。あんな揺れとる中、あんな大荷物で、あんな走れる人は他におらんで。ウチなんか足がすくんでよう立てんかったで」

みかやん「いやぁもう、ぶったまげた。こんなの初めて」

と話していると立て続けに3部屋空いたので、気を取り直して掃除に向かった。Fちゃんの話によると、地震直後に帰ったのは、デリヘル嬢と男性客、20代女性と50代男性、40代の男女の3組だったそうだ。掃除に入ると3部屋とも、ベッドカバーや掛け布団が床に落ちていて、バスローブが散乱していた。凄い勢いでベッドから飛び起き、慌てて服を着て部屋を出たのだろう。

お客さん達が大慌てで帰ってくれたお陰で、漬け物1袋、ビール500ml1缶、キャラメルコーンをゲッツ!3部屋ともお風呂はラッキーだった。Fちゃんに空き部屋の点検を命じられ、各部屋を回ると、食器棚のビアグラスやワイングラスが倒れていて、回転台に乗っているTVがあらぬ方向を向いていて、あらためて地震の強さを思い知った。

リネン室へ戻り崩れたリネンを積み直し、ロッカー室の点検を終え、フロントへ退勤の打刻をしに行った。

Fちゃん「結構揺れたな。俺はとっさに事務机の下に隠れたけど、ハッと気がついて緊急ボタンを押して全部屋のロックを解除したんだ。いや〜。慌てたぞ」

みかやん「あたしらも大慌てさ。取り敢えず帰るわ」

6時7分に打刻をして、玄関で靴を履いていると、6時9分にまた揺れだした。

トド「うわあ。また来たで。さっきと同じ位の揺れや」
みかやん「と、取り敢えず玄関のドアを開けておこう」

今度の地震は時間的には短かった。やれやれと帰ろうとすると作業室の電話が鳴った。

Fちゃん「残業代付けるから30分残って、各部屋の点検をしてくれ」

との事で、また点検をして回った。さっき直したばかりのグラスがまた倒れていて、TVはとんでもない方向を向き、スキン入れの小さな籠が落ちていたり、コンビニボックスの中の物が後ろに下がっていたり、今回も揺れに揺れたという感じだった。また地震が起こると怖いので大急ぎで点検を終えた。

Fちゃん「地震直後に帰ったのは、不倫とデリヘルの部屋だ。まだ残ってる6組は本命の恋人同士や夫婦だって事だな」

みかやん「なるほど。不倫の人はお互いの家が心配だろうし、こんな所で縁もないデリヘル嬢と一緒でもどうしようもないよね」

トド「それにしてもや。こないな大きな地震が2度もあったのに寝てる言うのも凄い人達やで」

Fちゃん&みかやん「ホンマやな。あははは」

一時はこの世の終わりかと思うくらいの恐怖を感じたが、大した被害もなくホテルQをあとにした。

0:00-6:00 7部屋掃除
今日はOくんとの勤務。Fちゃんが休みなのでC班のフロントはT氏になり、我が班のフロントはダサ坊だ。C班に3部屋残されたものの、今夜もダサ坊の完璧なハギに助けられる♪と思っていたら、フロント用のピッチが壊れたそうだ。ピッチが壊れてはダサ坊はフロントで電話番をしなければならないので、ハギどころではない。ガッカリしていると、天の助けかI氏が来てくれた。

I氏「お疲れ様で〜す。工場の仕事が早く終わったから。。。」
ダサ坊「じゃ、留守番してて下さい!俺、ハギ行ってきます」
I氏「えっ?何?何?何で?」
ダサ坊「ピッチ壊れたんで。じゃ宜しくお願いします」
I氏「ええーっ。そんなつもりで来たんじゃないのに」

Oくん「いいじゃないすか。俺等2人で3部屋連続となるとハギが無いと、とてもとても」

みかやん「ピッチが壊れてもハギに入ってくれるなんて、さすがダサ坊だねぇ。頭が下がるよ」

I氏「いやあの、そうじゃなくて私はみんなと・・・」

Oくん&みかやん「じゃ宜しくお願いします!行ってきます」

バタバタと掃除をしているうちにI氏の出勤時間になり、I氏はホテルPへ行ってしまった。ろくに話も出来ず残念だったが、そのうちまた来るだろう。4部屋掃除して控え室へ戻るとダサ坊が走ってきた。

ダサ坊「ちょっとOくん!ビックリだよ!3Pだよ!3P!」
Oくん「えっ?3P?女2人と男1人の3Pすか〜?」
ダサ坊「それがそれが、男3人の3Pなんだよーっ」
Oくん「はああぁっ?」

ダサ坊「男3人で来たから、俺はてっきり3部屋に別れて入って、後でそれぞれデリヘル嬢を呼ぶんだと思ったんだよ。そしたら”どの部屋が広いんだろうな?”とか”ココは3人もOKだ”とか”料金はどうなるんだ”って声が聞こえてきて、フロントに来たんだよね。もう、その時は”3人もOKってアンタら3Pかい?”と思って、声もうわずっちゃったよ〜」

以下、その時のダサ坊と男性客達のやりとり。

ダサ坊「いっ、いらっしゃいませぇ〜」
男性A「3人なんすけど」
ダサ坊「お、同じお部屋をご利用ですか?」
男性B「3人で入ってもいいんでしょ?」
ダサ坊「はっ、はい。け、結構でございますぅ」

男性A「部屋も風呂も特に浴槽が広い方がいいんだけどオススメはどれ?」

ダサ坊「は、はい〜。お部屋も浴槽も広いのは218号室と201号室です」

男性B「どんな感じ?どう違うの?料金は?」

ダサ坊「218号室は黒い浴槽でお部屋が和風で料金は3名様ですと10800円で、201号室は白い楕円形の浴槽でお部屋は洋風で料金は12000円になります」

男性A「その料金の違いは何?」
ダサ坊「201号室はサウナとボディーシャワーが付いてます」

男性B「男性Cはどっちがいい?」
男性C「俺、和風に入ってみたい」
男性A「じゃ218号室決定!」
ダサ坊「は、はい。ありがとうございます。ごゆっくりどうぞ」

ダサ坊「てなわけで質問責めだったよ。その間に別のカップルが入って来たんだけど、パネルの前で俺も含めたら4人の男が密談してるわけでしょ。引かれちゃったよ。怪訝そうに俺等を見てたんだけど、心の中で”俺は違うよ〜。無実だ〜”って叫んだよ。結局、照れる素振りもなく堂々と男3Pさ。参ったよ」

Oくん「ひ、ひいいぃぃ。そんなの有り得ないって!」
ダサ坊「俺だって有り得ないと思うよ。でも事実なんだもん」

Oくん「俺は、そんな部屋の掃除に入りたくないよーっ!朝になったら白子地獄かい?イヤだ!絶対にイヤ!もし、その部屋が空いたらみかやんが1人で入ってね」

ダサ坊「俺もハギに入る勇気ないよ。みかやん、頼むね」

みかやん「あたしだってイヤだよ〜。3人分の噎せ返るような白子の香りに包まれるのもイヤだし、万が一、プレイの前に浣腸なんかされてたらどうすんの?最悪だよ〜」

Oくん「うわーっ。こええぇーっ」
ダサ坊「無理っ!絶対無理っ!」

恐怖におののく2人だった。Oくんはその後、部屋が空いてモニターから「カラス〜何故鳴くの〜」と聞こえてくる度に、飛び上がって驚いていた。

結局、私達が帰る午前6時になっても問題の218号室は空かなかった。Oくん曰く「生きた心地がしなかった」だそうだ。一方、ダサ坊は私達が帰った後、1人で午前9時迄の勤務だ。「”俺が1人でいる時に部屋が空きませんように”って祈っててね」と、何とも情けない表情をしていた。
0:00-9:00. 7部屋掃除
今日はOくんとの勤務。給料日前の平日は暇なので、当然のようにC班は全員0時にあがり、早速Oくんと2人になった。取り敢えず部屋が空くまで火曜日恒例のリネン折りをしていると、すぐに1部屋目が空いたので出動した。

ベッドの布団を剥いでいたOくんが叫んだ。

Oくん「おええっ。白子だよ〜。枕が濡れてたから何気なく臭いを嗅いだら白子だった!油断したよ〜」

みかやん「迂闊に臭いを嗅ぐのは危険だよ。いつも思うけど本当に白子って、とんでもない所についてたりするよね」

Oくん「そうそう。白子と言えば最近、トドが白子の事を”ザーメン”って言うんだよ。他の人やインテリ系の人が言うなら何ともないのかも知れないけど、トドにザーメンって言われると妙にいやらしくて、ザーメン、ザーメンと連呼されるとムカついてくるんだよね」

みかやん「別にムカつく事もないじゃないの。確かにトドのエロ話は生々しくて聞き苦しい時があるよね。あはは。ザーメンなんて言葉、トドには一番似合わないかも」

Oくん「でしょう!でもホント、ムカつくんだよ」

控え室へ戻ってリネン折りを再開すると、Fちゃんから電話がきた。

Fちゃん「202号室へスキンのおかわりを届けてくれ」
みかやん「はいよ。2個くらいでいいよね?」
Fちゃん「念の為に3個くらい持ったらどうだ?」
みかやん「了解」

Oくんはスキンのおかわりを届けに行きたがらないので、私が念の為にスキンを4個持って202号室へ行った。部屋から出てきたのは、身長185cm体重100kgぐらいのラグビーでもやってそうな20代前半の男性だった。スキンが4個入った小袋を渡し、逃げるように控え室へ戻った。

更にリネン折りを続けていると、30分ほどしてまたFちゃんから電話がきた。

Fちゃん「202号室。またスキンのおかわりだとよ」
みかやん「は?さっき4個持って行ったんだよ」
Fちゃん「面倒だから今度は8個くらい持って行け」
みかやん「それもそうだね。8個なら文句はないよね」

Oくん「また202号室でスキンのおかわりなの?部屋に最初から2個あって、みかやんが4個持って行ったのに、まだ足りないって?さっきから30分しか経ってないのに、もうスキンを4個使いきったって話かい?なんだそりゃ?今度は俺が届けるよ。8個持てばいいんだね」

みかやん「あら珍しい。Oちゃんがスキンのおかわりを届けてくれるなんて」

Oくん「うん。顔を見てくるよ」

鼻息を荒くして202号室へ向かったOくんだったが、一段と鼻息を荒くして帰ってきた。

Oくん「けっ。絶対やられるとは思ってたけどさ、男の俺が行ったらやっぱり挑戦的な顔されたよ。”ふふん”って得意気な顔さ。フンだ。あんな図体のデカイ奴に限って、ブツは短小で早漏なもんさ」

みかやん「あらまっ。見て来たわけでもないのに」

Oくん「きっと余程の短小でスキンを何枚も重ねて使ったか、余程の早漏でスキンを何枚も重ねたんだよ!間違いない!きっとそうだよ」

みかやん「まあまあ。そんなムキにならなくても」

朝方になってOくん待望の202号室が空いた。Oくんは一目散にベッドへ駆け寄り、ゴミ箱から一気にビニール袋を引き抜いた。するとそこには、赤々とした使用済みスキンが捨てられていた。ちなみにうちのホテルのスキンはピンク色だ。

Oくん「うわっ!すげえ!俺の想像を越えたよ。スキン4枚重ねかける3だよ!重ねて重ねてピンクのスキンが真っ赤っ赤だよ」

みかやん「そんな物ジロジロ見るんじゃないよ!ん?でもスキン16個持ってきたのに、4×3なら12個でしょ?」

Oくん「もう1回戦分は持ち帰ったんでしょ。なんたって4枚重ねだからね。あーっはっはっは」

みかやん「そんなに重ねてどうするんだろね?何かいい事あるの?」

Oくん「だから、よっぽど短小で早漏なんだってば。あの男、さっきは俺に勝ち誇ったような顔を見せたけど、最後に笑うのはこの俺さっ。かっかっかっかっ」

みかやん「別に勝ち負けの問題じゃないと思うんだけど」

Oくん「まっ、こーゆー事は女のみかやんにはわからないと思うけどね。ひゃっひゃっひゃっ」

とたんに機嫌が良くなり、ご満悦のOくんだった。こういう時の男の心理は私には全くわからない。

出勤前、夫と近所のカラオケ屋さんへ行った。夫が1000円割引券を貰ってきたので、出費は1000円弱で済んだ。そんなわけで今夜もホロ酔いで出勤してしまった。いかんいかん。

0:00-8:00 8部屋掃除
今日はOくんとの勤務。土曜なので、さすがにC班が午前1時まで残り、更にC班のD班が午前2時まで残って、我々と掃除をしてくれた。C班のDさんと言えば、最古参ベッドメイク係で超の付くお局様だ。リネン庫へのリネンの収納の仕方、リネンの折り方などウチの班にも堂々とケチをつけてくれるウルサ方なので、Oくんと2人で異常に緊張していた。

ところが実際に一緒に部屋へ入ってみると、お年のわりに(50代後半・こりゃ失敬)よく身体が動くし、明るく気さくな人だったので助かった。Dさんが帰り、午前2時からOくんと2人になった。今日は珍しくお客さんの入れ替わりが早めに終わったので、ゆっくり休もうとするとFちゃんが走ってきた。

Fちゃん「来たぞ!また来た!昨日の中国人5人組だ。みかやん、また昨日のセットを作ってくれ。Oくんは掛け布団に包布を掛けてくれ」

みかやん「やっぱりまた来たんだ」

Oくん「えっ?中国人って冬に何泊かしてたあの謎の中国人グループかい?」

みかやん「前回は4人で今回は5人だし、同一グループかどうかはわかんないけどね」

Fちゃん「よし。用意が出来たら2人で渡してきてくれ」

私はセット籠をOくんは掛け布団を持って部屋へ向かった。ドア入口でブザーを押して「失礼します〜」と声を掛けると、男性が1人で階段を降りてきた。パッと見は日本人だが言われてみると、どことなく中国系のお顔だちだ。しかもトドが言っていたとおり「おでこが長い」。おでこが広いと言うより「おでこが長い」と言う方が的確だと思ったとたんに笑いがこみあげた。

笑いをかみしめつつ「お待たせしました」と言ってセット籠と掛け布団を渡すと、男性は「ドモアリガトゴザーイマス」と言って階段を上がって行った。

Oくん「俺が前に見たのは女の人だったから、同じグループかどうかわかんないや。女の人だったらフロントK子にソックリだったから、もう1回見たら絶対わかったのに」

Fちゃん「昨日、みかやんから前回の事を聞いていろいろ考えたんだけどよ。旅行で来たんなら普通は大通りやススキノ方面に泊まるんじゃないか?どうしてレンタカーでわざわざこんな所まで来るんだろうな?」

Oくん「ええっ!今回もレンタカーなの?前回もだったよね」

みかやん「うん。それはそうとFちゃんったら、別にいろいろ考える事もないじゃないの」

Fちゃん「そうだけどよ〜。何でわざわざと思ってよ」

みかやん「近くに何だかよくわからないけど、外国人の為の施設があるよね?いつも外人さん達でごった返してる所。あそこに用があって来たんじゃない?」

Fちゃん「そうか。あそこならここからも近いよな。あー。スッキリした」

今朝まであれほど前回の事を聞いておきながら、更にいろいろと考えていたとは。危うく今日も中国人グループの話を朝まで引っ張られるところだった。

午前7時45分に1部屋空いた。掃除をすると8時を過ぎてしまうので、いつもなら見送るところだ。しかしFちゃんから電話がきて「俺も手伝うから、この部屋を片付けてから帰ってくれ!頼む」との事だ。しぶしぶ出動した。

早く片付けなければボランティア残業になってしまう。急いで階段を上がり、部屋のドアを開けてハッと息を呑んだ。あまりにも荒らされていた。お客さんは2人だったのに、グラス4つとワイングラスを2つ使っていたし、シーツやバスローブは血でドロドロ、お風呂はお湯が入ったままで壁も天井もベチャベチャ、血がついたティッシュはそこらじゅうに散乱していて、それはそれは酷い有様だった。

Oくん「ったく。時間無いのに無理して部屋に入るとこうだよ」
Fちゃん「そう言わず頑張ってくれや」

Oくん「こんなに荒らされちゃ掃除だけでも時間かかるよ。控え室に戻っても、リネンの返品と、おねしょマットの洗濯と、グラス類の消毒があるよ。何時までかかるか」

Fちゃん「後の事は俺がする。部屋だけ何とか上げてくれ」
Oくん「部屋だけでも8時過ぎるよ」
Fちゃん「煙草1箱で許して貰えないか?」
Oくん「えっ?煙草貰えるの?じゃ頑張る」

交渉成立でOくんは俄然張り切って掃除を始めた。お陰で退勤の打刻をしたのは8時2分だった。

0:00-9:00. 11部屋掃除
今日はトドとの勤務。金曜の夜で忙しくなるハズなのに、C班が全員0時上がりをしたので出勤早々ガッカリした。早速、午前1時の第一次帰宅ラッシュを迎え大忙しになった。空き部屋が1つでもあれば休み休み掃除ができるが、満室の場合はお客さんの出入りが止まるまでノンストップで掃除しなけらばならない。午前3時半にようやく控え室へ戻った。

部屋から回収してきた大量のリネンの片付けや、使用済みグラスやブラシの消毒をFちゃんがやっていてくれたので大助かりだった。やれやれと控え室の椅子に腰掛けるとFちゃんが来た。

Fちゃん「みかやん!歯ブラシとかコーヒーとかリネンを全部1人分用意してくれ。トドさんは掛け布団を出して包布を掛けてくれ!」

みかやん「はいはい。何?3Pかい?」
Fちゃん「おう。5人で来て3人と2人に別れた」

リネン籠に1人分のリネンセットや洗面セットやサービス品を詰めてFちゃんに渡すと、丁度トドも掛け布団に包布を掛け終わったところだった。

Fちゃん「よしっ!トドさん、そのまま掛け布団を203号室へ運んでくれ。俺はみかやんが用意してくれたセットを持つ」

トド「なんでや!普通、逆やろ!1人で包布掛けるのもしんどかったんやで」

Fちゃん「そうか?身体の大きさの割合で言ったら、トドさんが布団だろ?」

トド「フンッ!セクハラや」

文句を言いながらもトドは掛け布団を担いで203号室へ行って、すぐにFちゃんと戻ってきた。

Fちゃん「あちゃらの人達が5人で来たんだぞ」
トド「へ?あの人、あちゃらの人やの?」

Fちゃん「いきなり5人でゾロゾロ入って来てよ、カタコトの日本語を話せる奴がいて”ワタシタチ チュウゴクカラ キマシタネ リョコウデス”って言うから、”ベッド1つしかあーりません”って答えたら、”シッテマスネ ワタシタチ 6カイイジョウ ココ キテマス”って言うんだ。前にも来た事あるみたいだぞ」

みかやん「ああっ!来た来た!冬に毎日レンタカーで来て、4人で何泊もしてたよ(1月18日の日記)!その時は、4人で来て男1人と女2人の3Pと男1人に別れて部屋に入って、毎日きっちり同じ時間に来て同じ時間に出てたんだよ。ウチらとA班の間ではすっかり有名になっちゃって、すっごく怪しまれたりしてたよ」

Fちゃん「おおっ!今回もレンタカーで来たぞ!で?怪しまれたって何でよ?」

みかやん「ピッキング強盗じゃないか?とか、窃盗団じゃないか?とか中国○フィアかも?って噂になってたんだよ。ただの旅行者かも知れないのに失礼だよね。若い男性の方が年長者の男性をどう見ても兄弟じゃなさそうなのに”アニキ”って呼んでたりしたからだったのかなぁ」

トド「そない言われたら、めっちゃ怪しいやん!」

みかやん「で、どんな人だったの?」

トド「男の人で20代後半くらいやねんけど、おでこめっちゃ長いねん」

みかやん「えっ?若い方が3Pなの?前は年上の男性が3Pだったんだよ」

Fちゃん「じゃあ、さっきの若ハゲが出世したって事か?」

トド「冬の1人寝がよっぽど寂しかったんちゃう?俺も今度はアニキみたいに3Pしたる!とか思ってたんちゃうか?」

Fちゃん「でもな。”ソファデ カミン トリマース モウフ クダサイ”って言ってたんだぞ。冬に来た時はヤッてたのか?」

みかやん「うん。3P部屋は毎日しっかりスキンが2個以上使われてたんだって。全く別の中国人グループかも知れないし、メンバーを変えたのかもね」

Fちゃん「うーん。わからんなぁ」
みかやん「別にわかんなくてもいいじゃん」

6回以上も来てくれたとなると、大事な大事なお得意さまだ。あれこれ詮索しなくてもいいじゃないか。前回、謎の中国人グループが来た時はFちゃんはホテルKのフロントだったし、トドはレンタル移籍でホテルPへ行っていたので、彼らの事はいっさい知らなかった。トドもFちゃんも、自分が何でも一番知ってなきゃ気が済まない知りたがり屋の人達だ。お陰で朝まで質問ぜめにあった。

中国ご一行様は、またお見えになるのだろうか?

0:00-6;00 7部屋掃除
今日はトドとの勤務。昨日はC班も我が班もリネンには手を付けられず、てんこ盛りのリネンが放置されていた。基本的に朝のA班や昼のB班はリネンを折らない。「本送」と言う年末の大掃除のような徹底的な掃除をするので、リネンを折る時間もないし、折れる人も少ないそうだ。A班やB班までリネンが足りただろうか?と、リネン庫を見に行った。

今朝、圧倒的に少なかったバスローブが減ってないように見えた。「???」とバスローブを手にとって見て吹き出した。時代劇の”かみしも”のような立派な肩幅のバスローブが何枚もあった。普段、バスローブなんか折った事がないA班かB班の誰かが、必要に迫られて慣れない手つきで折ったのだとは思うが、あまりにも傑作だった。笑っちゃ悪いとは思いながらトドと2人で大爆笑してしまった。

1部屋目が空いたので掃除に行くと、バスローブだけが使われずにリネンセット籠に入ったままだった。セット籠に”かみしも”が2枚入っているのを見て、またトドと2人で大爆笑した。掃除を終え、大笑いしながら部屋から出ると201号室からお客さんが出てきたので、こっそり覗いていた。

20代後半の男性の後から40代後半の女性がついてきて、更にその後から20代前半の男性が出てきた。3Pだ。3人とも満足そうな満面の笑みをたたえながら、女性を真ん中にして腕を組んで帰っていった。

みかやん「男1人と女2人の3Pはよく見かけるけど、女1人と男2人の3Pって少ないよね?」

トド「ホンマやな。しかしまぁ今の女の人、ウチと同じくらいのトシやで。それが若い男2人も携えてや。Oくんやないけど、ウチにしたらそんなもん”有り得ない”って」

みかやん「あたしだって有り得ないよ。最後に出てきた男の子なんかハタチそこそこでしょ?とってもじゃないけどあんな若い男の子の前で、こんな老いた身体を晒せないって」

トド「みかやんはまだまだイケるでぇ。一緒に温泉行った時、見たやろ?ウチなんか太ってるしブヨブヨで最悪やん。なあ?」

みかやん「い、いや。そ、そんな事・・・ない。よ。えへ。えへへへ」

お世辞は苦手なので走って201号室へ向かった。女2人の3Pでも部屋が荒らされて大変な事になっている場合が多いのに、男2人の3Pだったその部屋は綺麗なものだった。3人仲良くサウナに入ったのか、サウナ室に脱いだバスローブが3枚あり、洗面所にはフェイスタオル3枚、ソファの上にはバスタオルが3枚あった。ずっと仲良く3人で同じ行動をしていたのだろうか?

トド「ゴミ箱にスキン3つ捨ててあったで。男の子のどっちかが2回って事やろな」

その答はテーブルの上にあったらくがき帳に書いてあった。

「○太 20才 初体験!
 ○子ママ ○太さん ありがとう
 2人とも僕が大好きな憧れの人
 ○子ママの為に今日まで童貞で良かった
 20才で初体験って遅いの?

 ○太君へ
 初体験の相手がこんな年増で良かったのかな?
 ママは○太君の本当のママより年上なのよ
 20才で初体験は早くも遅くもないのでは?
 ○平君も○太君も素敵でママ幸せ

 ○太へ
 20才で初体験はハッキリ言って遅い
 ママの為というよりずっとモテなかったんだろ?
 ↑うそうそ
 俺は初体験16才でセックス歴10年だ
 初体験で2回やって3Pってのはスゲエ

 ○子ママへ
 俺も今日が初体験だったよ
 ↑うそうそ
 でも3Pはマジで初体験 
 ママも素敵だったよママはいつだって素敵」

トド「ふーん。20才の子の方が2回やったんや。女の人はいかにも飲み屋のママ風やったな」

みかやん「本当に素敵なママさんだったよね」

トド「そんな事あらへんて。20才のお客さんをつまみ食いするなんて、いやらしわー。息子みたいなもんやろ」

みかやん「妬かない妬かない」
トド「妬いてへん!」

控え室へ戻って怒濤のリネン折りを始めた。作業室がリネンだらけでリネン地獄だ。2人とも無言で黙々とリネンを折った。

みかやん「あっ!そう言えば”かみしも”どうしよう?」
トド「申し訳ないけど折り直させてもらおか」
みかやん「だよね。折り直そう」

リネン庫へ行って棚から全ての”かみしも”を回収した。笑っちゃイケナイと思っても何度見ても笑える状態の”かみしも”だった。トドと2人朝まで大笑いしながら、かみしもを折り直した。A班やB班の為にも寸暇を惜しんでリネン折りをしなければ!と思った。
0:00-6:00 11部屋掃除
今日はOくんとの勤務。Fちゃんが休みなので私達のフロントはダサ坊で、C班はフロントT氏だった。出勤してモニターを見ると、掃除待ちの部屋が5つ。大量のリネンも放置されたままだった。リネン庫を見ると、私達の分のリネンは足りるが、朝のA班やB班までは在庫が保たない状態だった。

T氏「D班が2人勤務になったと聞いた時も驚いたけど、C班が3人勤務と聞いたらさすがに呆れたよ。早速パンクしたね。C班は、20部屋くらい掃除してて残業は無理だと言うんだけど、どうしよう」

みかやん「いいですよ。2人でやりますから」

T氏「C班の3人勤務は無理ってフロントK子に言うね。C班のツケがたった2人のD班に回るなんて惨いよ」

C班もお気の毒だが、5部屋も残されるとやる気を失う。ダラダラと1部屋目へ行くと、バスローブが2枚とも見当たらなかった。風呂係のOくんに聞くと「無いよ。浴槽にお湯も入ってないみたいだし」との返事。風呂の入口から覗いた場合、浴槽のお湯が半分以下だとお湯が入ってないように見える。Oくんに浴槽の傍まで行って見て貰った。

Oくん「ああっ。最悪。ローブ2枚ともあったよ。お湯に浸かってる」

Oくんは浴槽からバスローブを引き上げ排水溝の上に置き、足で踏んでお湯を絞った。

Oくん「何て事を!外国の映画のワンシーンでも真似したんじゃない?そんな奴に限ってチンチクリンで、こってこての日本人顔だったりするのさ。フンだ!お湯もこんな少ししか入ってないし大デブだよ」

そう言っている間にもお客さんがどんどん入れ替わるが掃除が追いつかない。2部屋掃除している間に掃除待ちが8部屋になり、掃除待ちで満室になってしまった。さすがにこれはマズイ。Oくんを宥め賺して3部屋目の掃除をすると、T氏とダサ坊に呼び止められた。

T氏「無理するんじゃない。休みなさい!いくら何でも限界がある」

ダサ坊「俺も明日、フロントK子に説明するよ。これじゃA班に部屋を残しても仕方ない」

みかやん「ありがとうございます。空き部屋が2つ出来たら休みます」

先は長いので4部屋掃除してから休憩した。T氏とダサ坊の言葉が温かかった。暫しの休憩の後、気合いを入れて掃除へ向かった。

部屋の階段を上がる途中、妙に焦げ臭くてイヤな予感がしたが、部屋の戸を開けて愕然とした。テーブルの上にベッドパットが乗せられ、ベッドパットに焼け焦げた跡が付いていて、ジャブジャブに濡れていた。その傍らにシーツがあり、シーツにも大穴が開いていた。寝煙草でシーツとベッドパットを焼かれていたのだった。

Oくん「ベッドパットがズブ濡れだよ。こんな事になったんなら、俺等を呼んでくれれば良かったのに」

みかやん「大変な事をしたと思って呼べなかったんでしょ。それより灰皿を見て。2個とも水を入れてるよ。吸い殻が入ったまま水を入れられると汚くてイヤ」

Oくん「勝手な客の判断で消火活動されると俺等には迷惑でしかないよ」

手にビニール袋をはめて水でふやけた吸い殻を灰皿から拾い、灰でドロドロになった灰皿を洗った。お陰で洗面所がドロドロになった。次はベッドパットだ。

テーブルに広げられたベッドパットを持ち上げると、テーブルの上や床も水浸しになっていた。ベッドパットは厚さ5〜6cmのWベッドサイズなので元々かなり重い物なのに、たっぷりと水を吸って重さが増していた。いつもは2人で肩に担いだり頭の上に乗せて運ぶのに、今回は濡れているのでそうもいかない。持ちにくいので何度も落としそうになりながら、ようやく控え室まで運んだ。

ベッドパットを干そうにも水が滴っているので、風呂掃除用のボロタオルで挟み、上から踏んで水気を取った。それを何度か繰り返してからベッドパットを干し、新しいベッドパットを持って部屋へ向かった。焼け焦げたシーツの返品作業をしたり、水浸しの床を拭いたりで、掃除待ちの部屋が多くてクソ忙しい中、1時間もかかった。

Oくん「はーっ。ムカつく。お願いだから勝手な消火活動はやめてくれ!1部屋にこんなに時間かけてられないんだよ!」

みかやん「火事やボヤにならなくて済んで良かったじゃない。掃除待ちの部屋がこんなにあるのに燃えたまま逃げ帰られてたら、あたしらが掃除に入る頃には大火事になってたかも知れないよ。消火活動して貰って良かったんだよ」

結局、掃除が追いつかずA班に4部屋残して帰った。

0:00-9:00. 9部屋掃除 
今日はOくんとの勤務。昨日からC班が3人勤務になった。昨日は祝日だったのでどの班も暇で、C班に部屋やリネンを残されるような事にはならなかったそうだ。今日は火曜で大量のリネンが届く。出勤してモニターを見ると、掃除待ちの部屋はなかったが、大量のリネンが手つかずになっていた。さすがのC班も3人では、部屋を片付けるのが精一杯でリネンには手が回らなかったのだろう。

部屋が空かなかったのでOくんとリネン折りをしていると、Fちゃんが出勤してきた。昨日、Fちゃんが私にした話しをOくんにも伝えた。

Fちゃん「かくかくしかじか、こうゆう事だから頼むな」
Oくん「はーい」
Fちゃん「昨日はこのお嬢ちゃんに噛みつかれて大変だったぞ」
Oくん「お嬢ちゃんて・・・」
Fちゃん「トド母さんはお喋りだから言ってないからな」
みかやん&Oくん「了解」

部屋掃除とリネン折りを繰り返していると、一気に4部屋空いた。一番奥の部屋から攻める事にしたが、Fちゃんは一番手前の部屋にハギに入った。奥の部屋の掃除を終えて、手前まで戻るのも面倒臭いので、ハギは済んでいなかったが隣の部屋へ入った。

私はベッドの布団を剥がそうとしていた。一番最初にベッドカバーを剥がすのに、ベッドカバーが無い。

みかやん「Oちゃん、そっちにベッドカバー有る?」
Oくん「こっちには無いよ。何で?そこに無いの?」
みかやん「無いんだよね」
Oくん「悪戯して隠されたかな?」

時にお客さんに様々な悪戯をされる事がある。最悪だったのがローション塗りたくり事件で、その他はコーヒーカップと皿をボンドでくっつけたり、伏せてあるコーヒーカップの中にスキンを入れられたり、物を隠された事があったので、また悪戯だろうとベッドカバーの捜索を始めた。

ベッドカバーはWベッドサイズにフリル付きで大きいし、生地が厚いのでたたんでも結構な大きさになる。浴槽の中、トイレのタンクの中、冷蔵庫やコンビニボックスの後、ソファーの下など、懸命に捜索したが見つからなかった。

Oくん「やられたよ。盗まれた」
みかやん「あんな趣味の悪いのを?」
Oくん「もっと良くて安いのいくらでも売ってんじゃん」
みかやん「全くだよね。センスを疑うよ」

Oくん「はーっ。ムカつく。あんなのをわざわざ持って帰るセンスも最悪だけど、その根性が気に入らない!コーヒーや砂糖じゃないんだから、立派な窃盗犯だよ」

Oくんの怒りが止まらなくなった。とっとと残り2部屋を掃除して、Oくんに連れられてフロントへ行った。

Oくん「Fちゃん、ビデオを巻き戻してよ。4時半頃211号室から出た客を見たいんだ」

みかやん「そっか。どんな客か見れるね」
Fちゃん「211号室は4時26分に出たぞ。どうしたんだ?」
Oくん「ベッドカバーを盗まれたんだ。どんな客か見てやる!」
Fちゃん「盗られたか。どらどら見てみるべ」

ボタン操作1発で4時26分に211号室からお客さんが出てきた所が再生され、その画期的さに驚いた。最初に黒いTシャツに黒のジャケット、黒ズボンの黒ずくめの30代半ばのちょっと強面の男性が出て来たが、手ぶらだ。後ろから白いチビTにピタピタジーンズをはいた20代後半の女性が出て来た。女性の白いチビTの両肩にリュックの黒い肩ひものような物が見えたので、女性がリュックにベッドカバーを忍ばせたと思われた。

女性が玄関に近づくたびに画像がアップになる。どアップになったところでよく見ると、リュックの肩ひもではなく、女性の長い黒髪で女性も手ぶらだった。

みかやん「あれれ?2人とも手ぶらだよ」
Fちゃん「も1回見るべ。今度は男の方を重点的にな」

Fちゃんがもう1度ビデオを巻き戻して再生してくれたので、三人でじっと男性を見つめた。

Oくん「あっ!男が犯人だよ!前屈みで歩いてるし腹を押さえてる!あの野郎、腹に隠してやがる」

Fちゃん「211号室の車は、札幌○○、○の○○ー○○な。俺のブラックリストにも書いておくな」

Oくん「みかやんも、この男と女の顔、よく覚えておいてよ。今度来たら聞こえるように”あっ、ベッドカバーの人だ”みたいに言ってやんなきゃ」

みかやん&Fちゃん「そこまでしなくても」

Oくんの最終目的を知って驚いた。私達が、男女の顔や車のナンバーや車種を知ってるという事実だけで十分じゃないか。こんなところをFちゃんに「青い」と言われるOくんだった。

0:00-9:00. 13部屋掃除
今日はトドとの勤務。暇な日曜のはずが明日は祝日なので今夜は土曜のノリで忙しく、C班のTさんが午前2時まで残ってくれた。仕事は忙しいが、Tさんの明るさに救われた。

Tさん「D班の時間帯もこんなに忙しいと思わなかったの。私達が帰る1時頃が一番忙しいんだね。なのにたった2人だとキツイでしょ。若くなきゃD班は勤まらないねぇ。あはははは」

みかやん「C班の忙しさには敵わないよ。ウチなんか暇な時はかなり暇だからね。C班の仕事で疲れてるのに、ウチの班の分も働いて貰って心苦しいよ」

Tさん「なんもさ。ウチはなんだかんだ言ったって2組でやってるからね。20部屋やっても1組10部屋しかやってないんだから、D班と変わらないって。私はトシだから堪えるけどね。あっはっは」

部屋へ掃除に入ってもC班のTさんはとても明るい。

「どうしてスキンをゴミ箱に入れないで枕元に飾るんだろうね。あっはっは」

「男のお客さん、トイレにシッコじゃなくて別の物をまいてるよ。あははは」

「生理ならフェイスタオルで拭かないでティッシュで拭いたらいいのにね。あっはっはー」

「ラブホテルに生理のお客さんが来るなんて夢にも思ってなかったさ。あはははは」

Oくんやトドなら大いに怒るところなのに、Tさんは明るく笑い飛ばす。Tさんといい、ダサ坊やSさん等々C班がらみの人達は、みんな明るくて働き者でいい人ばかりだ。

Tさんが帰った後、トドと2人で入った部屋で缶コーヒーをゲッツ!「ゲッツ!ゲッツ!」と喜んでいると、Fちゃんが来た。

Fちゃん「さ、お嬢ちゃん!ベッド組むぞー」
トド「はいはい」
Fちゃん「アンタは母さんだろ。みかやんを呼んだんだ」
トド「母さんって何や?アンタみたいな息子はおらんで」
みかやん「いや〜ん。お嬢ちゃんだなんて〜。えへへへ」
Fちゃん「母さん、ゆっくり風呂掃除しててくれ」

Fちゃんが何やら私のゴキゲンとりをするし、トドを追い払ったところをみると、何か良くない話があるのだろうと悟った。ベッドを挟んでFちゃんと向かい合わせになった。

Fちゃん「急な話だけど社長命令で明日からC班が3人体制になる」
みかやん「はあっ?何それ?そんなの無謀でしょう」
Fちゃん「平日限定だ。D班は金曜土曜も2人になる事になった」
みかやん「C班の人数が少なきゃこっちにしわ寄せがくるよ」
Fちゃん「金曜土曜はC班の人数を増やしてD班にまわす」
みかやん「そんな事、いつまでも続けられないって」

Fちゃん「9月に入って1回転強の日があって社長がお冠だ」
みかやん「経営者なら長い目で見ろ!って言ってやってよ」
Fちゃん「今は社長の言う事を聞いていずれ無理だと断るつもりだ」

みかやん「人数減らして掃除に時間がかかって、それで部屋を売り逃したら笑えないよ。一番忙しい時間帯のC班が3人なんて絶対無理!C班に部屋やリネンを残されても、こっちは2人なんだからパンクするの目に見えてるよ。人件費削減って手っ取り早いだろうけど、八方手を尽くして最後の手段なんじゃないの?9月に入って1回転だって、元々9月は暇な月だしホテルPのリニュアルオープンの後で最初からわかりきった事でしょう。何て短絡的な!」

Fちゃん「しーっ!まあまあ落ち着いて。俺も全く同じ意見だ。だから無理するな。無理しなくていい」

みかやん「何?パンクさせていいって話なの?」

Fちゃん「そこはリーダーのみかやんが上手くやれ。言い訳は俺がする。今までは社長の言いなりになってたけど、無理なものは無理だ。データ上に無理だという実績を乗せられればまた人を増やせるだろ。俺の言ってる意味わかるよな?」

みかやん「わかったよ。社長がデータ引っ張った時に、掃除待ちの部屋が沢山あったり、掃除待ちの時間が長かったりすりゃいいんだね」

Fちゃん「あんまりハッキリ言うなって」
みかやん「そのうち黙っててもそうなるよ」
トド「ん?何の話や?」
Fちゃん「いや、何でもない」

トド「なあなあ。何の話や?教えて教えて!」
Fちゃん「別に何も話してないぞ」

トドあたりは「ウチは知ってんねん!」と得意になってC班に情報を流したりするので、内密なんだろう。はあぁ。また面倒な事に巻き込まれそうだ。
0:00-8:00 13部屋掃除
今日はトドとの勤務。台風14号が北海道に接近中との事で雨や風が強くなり、チャリを諦めてタクシーで出勤した。土曜だが、こんな雨や風では来るお客さんも少ないだろうと思いきや出勤時には満室に近い状態だった。今夜はC班のTさんが午前2時まで残る事になった。

C班のTさん(50代・女性)は先月入ったばかりの新人さんだが、仕事ぶりは真面目な上、明るいキャラで我々の好感度抜群だ。

Tさん「私が家を出た頃はまだ小雨だったの。だから自転車で来たのさ。こんな雨風になると思わなかったもの。だから今、旦那に電話したの。”大事な大事な奥さんでしょ。2時に迎えに来て”ってね。あはははは!それよりさ、ごめんなさいね。残るのが私なんかで申し訳ないわ。私以外の人はみんなバリバリなのにね。あはははは!」

みかやん「とんでもない。Tさんと一緒に働くのを楽しみにしてたよ。急遽2時まで残って貰う事になって、こっちの方が申し訳ないよ。暇だといいね」

トド「だんだん雨も風も強くなってきたで。こんな天気やとお客さんも逃げ帰るんちゃうか?入って来るお客さんもおらんやろし。きっと暇やで」

私達の想像とは裏腹にとんでもなく忙しくなった。こんな雨や風にも負けず、お客さんの出入りが止まらなくなり、さすがに驚いた。バタバタと掃除をして午前2時になり、Tさんが帰り支度を始めた。

Tさん「いや〜。たまげたね。こんな天気でもお客さんの出入りが凄いんだもんね。ラブホテルって天気は関係ないんだね。あはははは」

トド「そやな。天気よりヤリたい気持ちの方が勝ってまうんやろな。でもな、北海道の人間は台風を甘く見過ぎやで。台風て北海道には滅多に来ないやろ。だから台風の怖さを知らんのや。ウチが大阪におった頃、台風が来てる言う時は、滅多な用では出かけんかったで。ラブホテルなんか論外や」

Tさん「確かにニュースで台風の事を言ってても、こっちまで来るとは思わないしピンとこないもんね。じゃ、台風が来ないうちに帰るわ。あははは」

風の音が強くなったので、Tさんを見送りに玄関まで行ったら、鍵をかってもいないのに玄関のドアが開かない。力ずくでドアを押すと少しだけ開いて物凄い力で押し戻された。

みかやん「うわぁ。風でドアが開かないんだよ!外、物凄い暴風雨になってるよ」

トドと2人がかりでドアをこじ開けると、風の音や駐車場の暖簾がはためく音が凄くて急に怖くなった。Tさんがご主人の車に飛び乗ったのを見届けて力尽きると、凄まじい勢いでドアが閉まった。

みかやん「ふえ〜。こりゃ台風だよ。こんなの久しぶりってか、初めてかも」

トド「ほんまもんの台風はこんなもんやあらへんで、もっとやな・・・」

と話しているところへFちゃんがやって来た。

Fちゃん「今、外回りしてきたらとんでもない暴風雨よ。参ったぞ。こんなんじゃもう客も来られないな」

トド「なんやて?こんな暴風雨に何が外回りや!アホちゃうか?風に乗って物が飛んできたのがぶつかったりしたら、どないすんねんな!台風の時はそれで命落とす人もおるんやで」

Fちゃん「そうは言ってもフロントとして、お客さんの車に被害は無いか?とか、何かの障害になるような事になってないか?とか、見回りは必要だろう」

そこで、モニターから「春が来た春が来た」の曲が聞こえてきた。お客さんが来た事を知らせる音だ。

トド「こんな台風みたいな天気の日に4時まで、どこで何しよったんや。黙って家へ帰ったらええやんか。家族はおらんのんか?北海道の人の無知さ加減にはホンマにビックリや。台風言うんはな・・・」

今度はモニターから「カラス何故鳴くの〜」の曲が聞こえてきた。お客さんが帰る事を知らせる音だ。

トド「わざわざこんな一番酷い時に帰らんでもええやんか!アホばかりでイヤんなるわ!大阪にも台風や津波やいう時に、わざわざ海へ行くアホもおったけど、それと大して変わらんで」

台風並みにトドの鼻息が荒くなり、話が止まらなくなったので、部屋のTVで台風情報を見た。すると台風は温帯低気圧に変わり、札幌も暴風域から外れたようだった。

トド「はあ〜。やれやれや。ヤリたいいう気持ちが台風の強さにも勝るとは思わんかったで」

私達が帰る頃には風も弱くなっていたが、トドは私を家まで送ってくれた。車の中でもトドの「台風言うんはな・・・」の話が止まらなかった。やれやれ。
0:00-6:00 15部屋掃除 
今日はOくんとの勤務。出勤時には満室でC班が2組とも掃除で出払っていた。私達もすぐに掃除に入り、C班の1組が午前1時まで残り、更にC班のK氏が午前3時まで残ってくれた。お客さんの出入りが止まらず、休みなく掃除を続けた。

11部屋掃除してK氏が帰ってからようやく落ち着き、控え室で休憩した。チャレンジャーOくんは、金曜だと言うのにカップ麺を買っていた。暇な日ならともかく、満室の時は部屋が空いたらすぐに出動しないと、待合室に居るお客さんを必要以上に待たせる事になるというのに、不謹慎な奴だ。

ところが、Oくんがカップ麺にお湯を注いで食べ終わっても、おまけに食後の一服をしても部屋は空かなかった。悪運の強い奴だと呆れていると部屋が空いた。

いつもの場所でスタンバイしていると、「ガチャガチャ」とドアを開ける物凄い音と共に、先に女性が飛び出てきて、追いかけるように男性が出てきた。

男性「T美!ごめん。悪かった」

女性「アンタの”ごめん”は聞き飽きたよ!毎度毎度、私を何だと思ってるの?」

男性「今日は本当にゴメン」

女性「昔から同じ!アンタは子供の頃から少しも成長しないで、私に頼りっぱなし。いい加減にしてよ」

男性「こんな静かな所で大きな声で言う事じゃないだろう」

女性「アンタがそうゆう男だから仕方ないでしょ!最低!アンタみたいな男と産まれた時から一緒なんて、そんな腐れ縁は今日で断ち切ってやる」

男性「T美、落ち着けよ。本当に悪かった。こんな所でそこまで言わなくても」

女性「フンッ!1人で帰るから着いて来ないでね」

女性は物凄い勢いで玄関から出て行った。男性はまたも慌てて女性を追いかけた。玄関の戸が閉まる音が聞こえて、身じろぎもせず隠れていた私達の緊張が解けた。

みかやん「何の騒ぎだろ。話の内容だと幼馴染みみたいだね」

Oくん「そうらしいけど、”こんな所”って言ったよ。失敬な!」

通路を歩いてフロントの前を通りかかるとFちゃんが出てきた。

Fちゃん「凄いケンマクだったなぁ。聞こえてたべ?」
みかやん「うん。話は見事に筒抜けさ」

Fちゃん「男から電話きて”金が2千円足りないが何とかならないか?”って言うんだ。そう言われても何ともならんべ。そしたら電話の向こうで女が”また私の財布を当てにしたの!冗談じゃない!何、考えてるのさ”って、ギャーギャーわめいたんだ」

Oくん「金の話か。金の切れ目が縁の切れ目と言うし、金が絡むと人が変わったりするらしいからね」

Fちゃん「男は俺に何かを訴えてたけど、女が”煙草代やジュース代くらいは目をつぶってきたけど、ホテル代まで当てにするってどうゆう事さ。昔からそう。私はアンタを遊ばせる為に働いてるんじゃないよ。彼氏でもないのに何て事すんのさ”って怒鳴ってて、男の声が聞こえなかったさ」

部屋へ入ると、ベッドの枕元にらくがき帳が開いたままあった。

「H明23才 T美23才 幼馴染み
 H明とは同じ病院でほぼ同じ時間に生まれて
 23年間隣の家に住んでる
 小学校も中学校も高校も一緒
 星座も血液型も誕生日も一緒
 子供の頃から仲良かったけど
 ずっとお互い別に彼氏・彼女がいた
 2人ともフリーなのは今が初めてかな
 誰と付き合ってもH明が気になって
 いろんな男と付き合ったけど私にはH明が1番
 だらしないトコも情けないトコもみんな好き
 H明とラブホなんて夢みたい
 今夜はいっぱい逝かせてね はぁと」

と書かれていたが、ノートの一番下には
「最低男!腐れ縁ならもう要らない」と書き殴ってあった。

Oくん「2千円で、あんなに怒んなくてもいいんじゃない?」

みかやん「付き合いが長い分、積もり積もったものがあるんだろうさ。幼馴染みでずっと仲良しで、気になる存在だったんだからさ。凄く嬉しくて期待してたのに裏切られた気分なんじゃない?今日だけは、だらしない所や情けない所は見たくなかったんだと思うよ」

Oくん「へええ。みかやんにも女心がわかるんだ」
みかやん「失敬な」

Fちゃん「あいつら、また来るぞ。腐れ縁てのはそう簡単に切れるもんじゃない。だから腐れ縁って言うんだ」

Oくん「どんな理由だろうと、あんなヒステリー女、俺はイヤだ」

Fちゃん「青いな。男と女はそんな簡単なモンじゃない。だから男と女は面白いんだぞ」

Oくん「ふーん」

納得がいかない様子のOくんだった。まだまだ青い証拠かな?


0:00-9:00. 9部屋掃除
今日はOくんとの勤務。近所の神社のお祭りなので、祭り帰りのお客さんで忙しくなるのか?と思えば、大々的な花火大会などとは違って、近所のお祭りくらいではそんなに忙しくはならないという噂だった。出勤してモニターを見ると、8部屋しか在室がなく噂どおりだと思っていた。

のんびりとフロントへ出勤の打刻をしに行くと、ダサ坊がランニングシャツ姿で打ちひしがれていた。

みかやん「どうしたの?服装とポーズが合ってないよ」
ダサ坊「聞いてよ。みかやん。さっき俺、泣いたよ」
みかやん「ええっ?何かあったの?」

ダサ坊「さっき、ハギに入ったらさ。何か臭ったんだ。取り敢えずハギに入ったらまず風呂の様子を見る事になってるから、風呂へ行ったらお湯が入ってたから栓を抜いたんだよね。で、ふと振り返ったら湯桶にお湯とフェイスタオルが入ってて、そのタオルに茶色い物が付いててさ、お湯の表面にも茶色い物体が浮いてたんだよ〜」

Oくん「ひえーっ!う、ウン○かい?」

ダサ坊「そうなんだよ。ウン○だったのさ〜。俺、マジで吐きそうになって苦しかったよ。だってタオルにはウン○ベッタリだし、固形の物が浮いてたんだよ。吐きそうなの堪えたら涙が出たよ」

みかやん「ひいぃ。で、それ、どうしたの?」

ダサ坊「汚物として分けておかなきゃなんないでしょ。タオルをビニール袋に入れたかったんだけど、湯桶にはお湯も入ってるし、ウン○が浮いてるし、どうしようもなくて、泣きながら手にビニール袋をはめてタオルを掴んでビニール袋ごと裏返したよ。もうね。泣いた。気分的には号泣だったよ」

みかやん「そりゃ泣くね。ご愁傷様」
Oくん「で、どうしてランニング姿?」

ダサ坊「だってタオルはお湯に浸かってるんだよ。ビニール袋に入れる時にお湯がはねて服にかかったらイヤでしょう。で、泣きながらベッドを剥がそうとしたら、綺麗に布団やカバーが掛かってたんだよね」

みかやん「そーゆーのって何かを隠す為なんだよね」

ダサ坊「そのとおり!シーツにもベッタリとウン○がついててさ、シーツの上にはバスタオルがあったんだけど、まさにそのバスタオルで尻を拭いたって感じにウン○が付いてたんだよ。吐きそうで限界だったよ」

Oくん「おええぇっ。でもわかるよ。俺も他人のウン○の臭いで何度か本気で吐きそうになったもん」

ダサ坊「看護や介護の仕事をしてる人を尊敬するね」
Oくん「俺には無理っ」
みかやん「ああっ!ところでその部屋の掃除は済んでるの?」
ダサ坊「それなら大丈夫。C班に入って貰ったよ」

Oくん「まあそれでもご飯はちゃんと食べてね」
ダサ坊「食えないよ〜。一生、カレー食えない身体になったかも」
みかやん「そんな事、言われたらあたしまでカレー食えないよ」
Oくん「ウン○食ってる時にカレーの話するなって笑い話あったね」
ダサ坊「笑えない」

落ち込むダサ坊を励まして控え室へ戻ると、C班の人達が帰り支度をしていた。

C班Yさん「ちょっと!聞いた?ウン○でウン○で大変だったの」
みかやん「今、ダサ坊に聞いてきました」
C班K氏「何なんだろうね。浣腸した様子もなかったよ」
C班Dさん「男なのか女なのかもわからないしねぇ」

C班Yさん「汚物の山だよ。シーツにフェイスタオルにバスタオル。ダサ坊なんかもう顔面蒼白だったんだよ。別の部屋の掃除に入ってたらさ、ダサ坊から電話きて”すぐ来て下さい”って言うんだもん。何事かと思ったら大事だったもんね」

Oくん「顔面蒼白にもなりますよね。ホント、ウン○だけは勘弁して欲しいっすね」

一同「ほんと、ほんと」

ウン○のお客さんが帰るのがもう少し遅かったら、私とOくんが掃除に入らなければならないところだった。C班全員で消毒して回って大変だったそうだ。結局その部屋は除菌消臭のオゾンマシンをかける為、売り止めになった。ダサ坊はガックリと肩を落とし、力無く「お先に〜」と言って帰っていった。何とも痛々しい姿だった。

その後、Oくんと私は血まみれの部屋に遭遇したが、ウン○に比べたら血なんか可愛い物だと思った。

朝になり、後片付けやリネン帳の締めを開始した。今日はどの班も汚物に見舞われたようで、リネン帳の汚物欄がいっぱいで、汚物専用のリネン袋も満杯になっていた。血は許す、百歩譲ってゲロも許す。だが、ウン○だけは勘弁して欲しいものだ。
0:00-6:00 6部屋掃除
今日はOくんとの勤務。”ニッパチ”と言って2月と8月が暇な業界が多いが、ラブホ業界は9月が暇だそうだ。ホテルPがリニュアルオープンして以来すっかり暇になったが、9月に入ったとたんにいっそう暇になった。まぁせいぜいリストラさらないよう頑張らねば。

最近は暇な日にFちゃんが風呂のペンキ塗りをしていた。「風呂ラッキーが多いのは浴槽の塗装が剥がれてボロボロになってるからだ」という事で、懸命に風呂のパテ埋めやペンキ塗りをしていたが、今日はOくんが拉致されてペンキ塗り要員にされたので、私は控え室でまったりと過ごしついついうたた寝をしていた。

Oくん「みかやん!起きて!部屋空いたよ」
みかやん「ペンキ塗り終わったの?あふあふ」
Oくん「ラリるから逃げ帰ってきたよ」
みかやん「お疲れさん。じゃ行きまっか」

その部屋ではOくんが部屋係兼洗面&トイレ係で、私は風呂係だった。

Oくん「ねえ!風呂に歯磨きカップある?」
みかやん「えっ?無いよ」
Oくん「じゃあ、やられたよ。持ち帰られた」
みかやん「100均でもっと良いのを買えるのにね」
Oくん「ったく。センスを疑うよ」

意外にも歯磨き用のプラカップを持ち帰られる事が多い。何のへんてつもない地味なベージュのカップなのに。つくづく、あんなのを持ち帰って家で使うくらいなら、100均でいくらでももっと良いのを買えるだろうにと思う。それよりも何よりも、持ち帰って良い物とそうでない物の区別もつけられないのか。残念な事に、私はうたた寝をしていて、Oくんはペンキ塗りをしていて、この部屋のお客さんを見ていなかった。

朝方になり部屋が空いたので、スタンバイして部屋から出てくるお客さんを待っていた。部屋から出て来たのは中年カップルで、女性は大きなスポーツバッグを持っていた。

Oくん「凄い荷物だよね。旅行中なのかな?」
みかやん「女は何かと荷物が多くなるからねぇ」

などと言いながら部屋へ入った。またOくんが部屋係兼洗面&トイレ係で、私は風呂係だった。浴槽にお湯が入ったままだったので、栓を抜いたり風呂を見回していると、Oくんの「ああっ」「まじっ?」「ええっ」と言う声が聞こえていた。

Oくん「何もかも根こそぎ!スッカラカンだよ。ビックリ」
みかやん「ああ。コーヒーとかお茶かい?」
Oくん「そんなもんじゃないよ。本当にスッカラカン」

Oくんに案内されて部屋を回ると、当然のように食器棚のコーヒー、砂糖、ミルクパウダーが無くなっていて、洗面所の歯ブラシ、ひげ剃り、シャワーキャップ、髪留めも綺麗に無くなっていた。こんなのはいくらでも持ち帰って貰って良い物だ。何のことはない。

しかしOくんが驚いたのは、そんな事ではなかった。ティッシュケースの中のティッシュが抜き取られ、トイレのトイレットペーパーが2個とも消えていた。

Oくん「セコイ。セコ過ぎる。まさにオバチャンの発想なんだろね。あーあー、あさましくてイヤになるよ。こんなので”賢い主婦”気取りされちゃたまらないね」

みかやん「どうりで大きなバッグを持ってたハズだよね」

トータルすると、コーヒー×2、砂糖×2、ミルクパウダー×2、お茶×2、割り箸×2、歯ブラシ×2、ひげ剃り、シャワーキャップ、髪留め、トイレットペーパー×2、ティッシュケースの中のティッシュ1束、造花1りん、入浴剤、スポンジ、生理ナプキン、スキン×2、マッチを持ち帰られていた。

Oくん「どれも持って帰ったからって叱られるような物じゃないけど、俺が連れの男だったら引くけどなぁ。ティッシュケースの中のティッシュを持ち帰る人なんて初めてだよ」

みかやん「なんつーの?あめにてぃぐっず?そんなのは持ち帰って貰ってOKだし、歯磨きカップよりは全然マシなんじゃない?」

Oくん「貧乏の俺でもこんな事はしないよ。自分の彼女が、ティッシュケースからティッシュを抜き取ってる姿を見たりしたら、それこそ100年の恋も冷めるって」

みかやん「ま、男でも女でもセコいと嫌われるって事だね」

Oくん「勝手に話をまとめないでよ。俺はこの手の客には無性に腹が立つんだから。だってさ、ティッシュをね・・・」

Oくんの話が止まらなくなりそうだったので、ベッドを組んだ後、速やかに風呂へ逃げた。別にいいんじゃないの?ティッシュくらい。私的には全く気にならないのに・・・ってもしかして私も既にオバチャンの発想?

0:00-6:00 6部屋掃除
今日はトドとの勤務。日曜日は暇なのでC班は全員0時上がりをし、早速トドと2人になった。弁当を食べたりしてまったりと休んでいると、部屋が空いた。フロントのダサ坊へ電話をして、コンビニボックスや冷蔵庫の補充を聞くと、ポテトチップスとミックスナッツが売れたと言うので、新しい物を持って部屋へ向かった。

部屋へ着いて冷蔵庫を見ると、ポテトチップスもミックスナッツも入ったままだった。

トド「やったで!ラッキーや!お客さん、お金だけ払って食べずに帰ってったわ。ええお客さんや〜」

との事で、幸先良く1部屋目でポテトチップスとミックスナッツをゲッツ!して、ゴキゲンになった。この部屋から出たのは中年カップルだった。

トド「お客さんが若いと、こないだみたいに休憩料金や宿泊料金やてモメる事もあるかもわからんけど、お客さんがあのくらいの年配の人やと、ラブホテル代くらいの事でガタガタ言わんのやろな」

控え室へ戻り、有り難くポテトチップスとミックスナッツを頂いた。また部屋が空いたので、いつもの場所にスタンバイすると部屋から出てきたのはまた中年カップルだった。しかしその部屋は私達には因縁の223号室だった。私達の中では「暇な日にわざわざ高い223号室に入ってる奴に限って、とんでもない奴が多い」という事になっている。イヤな予感がした。

部屋のドアを開けたとたん、熱波が押し寄せてきた。風呂が大変な事になっているというのを肌で感じてしまった。恐る恐る階段を上がり部屋を入るまでに熱気で汗ばんでしまった。思い切ってドアを開けると、風呂のお湯が出しっぱなしになっている音が聞こえたので、取り敢えず風呂へ走ってお湯を止めた。物凄い湯気だった。

やれやれと風呂から出て部屋を見渡すと、ゴミの山、食器の山、使ったリネンはあちこちに放置され酷い有様だった。念のためにベッドの布団を剥がしてみると、シーツが血まみれになっていた。最悪だ。

トド「ぎゃあああぁ。洗面所に痰吐いてんねん。助けて。取って。取ってーーー」

みかやん「いやだよ。そんな、痰だなんて」

トド「ウチ、ゲロやウン○は何ともないけど、痰だけはごめんや」

ふーん。汚物担当のトドでも痰だけは苦手だったとは。そりゃ知らんかったわ。と思いながらポットのお湯を取り替えなければならないので、渋々、洗面所の痰をポットのお湯で流した。

トド「うわぁ!サウナが血まみれや!ちょっとどないしよ」

続いてトドが大騒ぎするのでサウナを見ると、スノコに敷いてあるバスタオルが血まみれだった。バスタオルを剥がすと、スノコにも血が付いていて、床のスノコも血まみれになっていた。

みかやん「こないだなんか(8月18日)、サウナでシッコしてた客がいて酷い目に遭ったよ」

トド「何でサウナでシッコやの?」

みかやん「大量の空き缶があったからビールをたらふく飲んで、酔っぱらってサウナのドアをトイレのドアと思って、ドア開けてすぐシッコしちゃったんじゃないの?」

トド「ほなら、スノコもなんもわやわやなったんか?」

みかやん「水浸しって言うかシッコ浸しでさ、サウナで蒸されて強烈な臭いになってたんだ。どうにもなんなくてFちゃんを呼んだよ。Fちゃんがスノコを持って行って外で水洗いして乾燥させて、サウナにはオゾンマシンをかけてくれたんだ。お陰でその部屋はずっと売り止めになったよ。あっ、あの時も223号室だわ」

トド「暇な時なら売り止めも出来るやろけど、満室の日にこんな事されたらかなわんな」

取り敢えず、Fちゃんへ電話して状況を説明すると飛んできた。

Fちゃん「またこの部屋のサウナで中年の仕業かよ。本当によ、最近だったら中年の方が圧倒的にマナーが悪いぞ。中年が使った部屋にハギ入ると最悪だぞ。散らかし放題だからな」

トド「この部屋、ゴミとリネンが散乱してたし痰も吐かれとったわ」

みかやん「風呂のお湯も止めてないんだよ。アルツハイマーかい?」

Fちゃん「だろっ?中年の使った部屋はそんなのばっかりだぞ。俺なんか中年の後の部屋へハギ入るかと思うとゾッとするからな。こーゆー中年どもに限って”今時の若者は”なんて言ってるんだぞ」

Fちゃんがスノコを運ぶのを手伝ったり、ベチャベチャの風呂掃除に手こずったりで、この部屋の掃除を終えて控え室へ戻ると、1時間も経過していた。こんな中年にはならないよう気を付けなければ。
0:00-8:00 13部屋掃除
今日はOくんとトドとの勤務。さすがに土曜の夜は出勤時には満室でC班が残ってくれた為、午前1時には2班で7部屋の掃除をし、束の間の休憩をした。Fちゃんが出勤して来て、私達にマフィンの差し入れを置いていったが、頂く暇も無く、掃除に駆り出された。

掃除をしても掃除をしても待合室にはお客さんが待っていて掃除に追われ、Fちゃんもハギや掃除が終わった部屋へのお客さんの誘導で大忙しだった。次はまだFちゃんがハギをしていない部屋だったが、先に部屋へ入った。

私達が先に部屋へ入ったので、Fちゃんが冷蔵庫やコンビニボックスの補充品を持って来てくれた。その部屋ではローションとコーラが売れたので、Fちゃんがモニターの下にある冷蔵庫を開けて補充してくれていた。

Fちゃん「おおっ!た、大変だ!生中継だぞっ。みんな集まれ。見てみろ」

トド「生中継ってなんやねん。忙しいんやから邪魔せんといて」

Fちゃん「ほらっ。モニターを見てみろ。さっき、ウロウロしてる客が居たからモニターを切り替えたんだ」

私達が持ち歩いているリモコンで、部屋の集中ロックを解除して掃除に入ると、自動的にテレビの電源が入って、画面が控え室のモニターと同じになる。通常は部屋番号と滞在時間などが映し出されているが、リモコンでチャンネルを切り替えると、フロントから右の通路、フロントから左の通路、待合室、作業室の様子が画面4分割になって映し出される。

待合室の様子は、待合室のドアが閉まっていて中にお客さんが居る事が分かれば良いので、ドアと壁とテーブルの端が映るだけで、お客さんが普通に椅子に座ってる分にはお客さんの姿は映らない。ところが・・・。

Oくん「あははは!ホントに生中継だよ!ヤバイって!あは、あはは」

トド「だから、こんな時間に何が生中継や言うねん・・・。ああっ!」

Fちゃん「なっ。生中継だろっ?」

モニターを見ると、映らないはずの待合室に居るお客さんの姿が映し出されていた。女性がテーブルの端に座らされ壁にもたれ、女性に男性が覆い被さるようにしてチューをしているようだった。

一同、固唾を呑んで見守る中、男性の手が女性の胸へ伸び始めた。チューしつつ女性の胸を揉みしだく男性。待合室の中はムード満点になり、私達はモニターに釘付けになっていた。

みかやん「きゃーっはっはっは。ダメ。もうヤバイって〜」

と言い終わらないうちに、今度は男性の手が女性のスカートの中へ伸びた。

トド「あかん。始まってまうがな。この続きは部屋へ入ってからやな」

Fちゃん「待合室から出たり入ったりして落ち着かないと思ってたら、人目を忍んでこんな事をするつもりでウロウロしてたんだな。だからって何だって待合室なんかで」

みかやん「そりゃ、あたし達がこの部屋の掃除を終えてないからでしょう」

Fちゃん「おおっ、そうだった。こうしちゃ居られない。大至急、この部屋を仕上げてくれ。俺は通路で人の気配をアピールしてくる」

「大至急、この部屋を仕上げてくれ」と言われたものの、Fちゃんが何をするのか気になったので、そのままモニターを見ていると、リネン籠を持ったFちゃんが部屋を出たところが映った。Fちゃんはフロントの方へ歩き、待合室付近でわざとらしくリネン籠を落とした。静かな通路ではリネン籠を落とした音が大きく響いたのだろう。

男性はパッと女性から身体を離し、女性もテーブルから降りて椅子に座ったのか、2人の姿がモニターから消えた。

トド「はあぁ。やれやれや。20才くらいのカップルや。待ちきれんかったんやろな」

Oくん「俺的にはもっと続きを見ていたかったんだけどなぁ。もったいない」

みかやん「さっ、お楽しみも終わったことだし、早くこの部屋を仕上げないと」

Oくん「ああぁ。俺、風呂掃除が手つかずだったよ〜。みかやん、手伝って〜」

みかやん「こんなのに現を抜かしてるから手つかずなんだよ。手伝わないよ〜だ」

Oくん「みかやんだって、きゃーきゃーはしゃぎながら見てたのに〜」

みかやん「手伝うから早くしなさいって」

大急ぎで掃除を済ませ控え室へ戻った。私達が控え室へ戻ったのを確認して、Fちゃんが待合室のお客さんを空いた部屋へご案内すると、問題の20才くらいのカップルは何事もなかったように部屋へ入って行ったそうだ。今時のラブホは客室以外のいろんな所にカメラが付いているので、迂闊な事は出来ません。
0:00-9:00. 14部屋掃除
今日はOくんとトドとの勤務。C班の1組が残って午前1時までに4部屋片付けてくれたので、大助かりだった。我々も2人勤務に慣れてしまったせいか、3人だと1部屋の掃除が非常に早くなった。サクサクと掃除待ちの部屋を片付け、午前3時にはお客さんの出入りも落ち着き、控え室でまったりと休んだ。

金曜や土曜の夜中は1度満室になって落ち着くと、私達は暇になる。お弁当を食べたりしてのんびり過ごし、それでも暇な時はリネン折りや掃除用のボロ布を折って暇を潰す。お弁当を食べ終わり「さて、リネンでも折ろうか」と作業室へ移動したとたんに、1部屋空いた。滞在時間は40分だった。

「40分しか居ないし、お風呂ラッキーかも?」と淡い期待を抱いて部屋へ入ると、洗面所のリネン籠に足拭きマットが掛かったままになっているのが見えた。

Oくん「あっ!足マットを使ってないよ!お風呂ラッキーかも?」

トド「そうかも。お風呂係はウチや。見てみるな。。。」

と言って、風呂を覗きに行ったトドが叫んだ。

トド「あっ。お風呂ラッ。。。うわぁ。うわああぁ。出たっ!お岩さんや!お岩さん出たで!」

Oくん「それはそうと、お風呂はラッキーなの?」

トド「ラッキーや。風呂は使ってへん。でも、お岩さんが出とるんや。酷いでぇ」

”お岩さん”とは、大量の長い髪の毛が抜け落ちている状態の事だ。発見した人は各係に髪の毛の拾い忘れがないよう十分注意するように「お岩さんです」とか「お岩さん出ました」と言う事になっている。昨年の夏、何も知らずに「お岩さんが出た」と聞いて、全身凍り付いたのを思い出しながら、トドがいる風呂の様子を覗きに行った。

確かに風呂を使った形跡は無いのに、風呂の中央に大量の髪の毛が落ちていた。ふと見ると、風呂の外や洗面所の方も毛だらけだった。試しにトイレを覗くとトイレの床にも毛が落ちていた。私達が胸に貼っているガムテープで毛を取るときりがないので、床用の粘着シートを転がして毛を取った。

やれやれとOくんと私でベッドを剥がし始めると、シーツや枕の上にも大量の髪の毛が有り、気を取り直してベッドを組もうとすると、ベッドパットとマットの間にも大量の毛が落ちていた。お陰でベッドを剥がしてからベッドを組み終わるまでに物凄く時間がかかった。

Oくん「この抜け毛の数、異常だよね。でも掻きむしったふうでもなくて、自然に抜けてるような感じだよね?」

みかやん「うん。歩く度動く度に抜けてるって感じだよね。でも何で?前にもこんな大量の抜け毛があったけど、あの時はその部屋から注○針が出てきたんだったよね」

トド「ウチの妹、円形脱毛症になった事あったけど、こんなに抜けへんで。ウチの旦那も頭のてっぺんがだいぶ薄なってるけど、こんなには抜けへんて。こんなに抜けとったら今頃、ツルツルの丸ハゲちゃうの?」

一同「うーん。なんだろね?」

掃除の最後に床にはクイックルワイパーをかけて、絨毯の部分は粘着シートをかける。絨毯に粘着シート通称・コロコロをかけていたOくんが叫んだ。

Oくん「うわぁ。ちょっと転がしただけで凄い量の毛が付いてきたよ」

トド「やっぱ異常やな。キモイわ。なんか怖なってきた」

みかやん「秋は抜け毛の季節で通常の倍以上抜けるって本に書いてあったけど、コレは酷いよ」

トド「ほなら前にNさんが”人間も犬みたいに冬毛に抜け替わる”ゆう話も当たってるかもな」

Oくん「わかった!シャ○中でも円形脱毛症でもハゲでもないのに、この大量の抜け毛は。。。ドラムロールスタート!」

みかやん「どどどどどどどどどどど。はいっ」
Oくん「答えはっ!ズバリ、抗ガン剤だよ」
みかやん&トド「・・・・・・・・・・」
Oくん「あれっ?2人とも何でノーリアクション?」

トド「そうかもわからんけど、抗ガン剤を使わなならん人がこんな所にフラフラ来よるんか?思てな」

みかやん「噂には聞いてるけど、実際に自分の髪がこんなに抜けたら怖いなと思って」

トド「なんだかなぁ」
みかやん「ねえ」
Oくん「うん」

三人ともすっかり暗くなってしまった。このお客さんは特別としても、これからは抜け毛の秋。次のお客さんに気持ち良く部屋を使ってもらう為にも、部屋には毛の拾い残しが無いようにしなければ!

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